陸自の新拠点「石垣駐屯地」…なぜ“基地”じゃない? 格の違い? いえ役割の違いです!!

南西諸島防衛の新たな拠点として石垣駐屯地が開設されますが、なぜ「石垣基地」ではないのでしょうか。そこには陸海空の3自衛隊で異なる役割があります。「駐屯地」と「基地」の違い、何なのでしょうか。
2023年3月16日(木)、沖縄県にある石垣島に新たな陸上自衛隊の拠点が誕生します。その名は「石垣駐屯地」。日本全国には陸上自衛隊の駐屯地と分屯地が合わせて約160か所ありますが、なぜ陸上自衛隊の拠点は「基地」ではなく「駐屯地」なのでしょう。両者の違いは何なのか見てみます。
陸自の新拠点「石垣駐屯地」…なぜ“基地”じゃない? 格の違い…の画像はこちら >>静岡県御殿場市にある陸上自衛隊の駒門駐屯地。陸上自衛隊では「基地」とは呼ばない(武若雅哉撮影)。
そもそも自衛隊には担当分野ごとに陸、海、空の3つがありますが、そのなかで「駐屯地」と呼んでいるのは陸上自衛隊のみです。一方、海上自衛隊と航空自衛隊はそれぞれ「基地」という名称を用いており、逆に駐屯地や分屯地と呼称する場所はありません。そのため、たとえば陸海空3自衛隊が所在している「那覇」の場合、陸上自衛隊は「那覇駐屯地」、海上自衛隊は「那覇航空基地」、そして航空自衛隊は「那覇基地」と呼んでいます。
この駐屯地と基地の違いですが、わかりやすく表現すると、違いは「一時的な拠点」か「恒久的な拠点」なのかだと言えるでしょう。
陸上自衛隊は主に野外活動を基本としている部隊です。そのため、規則や教範などの多くには「野外」と名打っているモノが多いです。具体的には「野外幕僚勤務」や「野外衛生」といったような形で頻繁に目にします。そのため、陸上自衛隊の駐屯地はあくまでも「一時的にその場を使用しているだけ」だと言えます。そもそも陸上自衛隊は、有事の際には駐屯地から外へ出て、屋外に拠点を作り、そこで防衛にあたるという任務背景を持っています。

一方、海上自衛隊や航空自衛隊は、平素に限らず有事の際も同一の拠点を使用し、そこから逐次出撃する形をとることから、「基地」という名称を使っています。つまり、海自と空自は有事の際であっても拠点を移動することは基本的にありません。
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2019年に開設された奄美駐屯地の看板除幕式の様子。石垣駐屯地が開設される時にも、こうしたセレモニーが行われるであろう(武若雅哉撮影)。
その違いは、拠点警備にも見ることができます。海上ならびに航空自衛隊が「基地警備隊」という専門部隊を設けて警備任務にあたっているのに対し、陸上自衛隊は「警衛隊」と呼ばれる日直制の警備要員が駐屯地を守っています。「警備隊」と「警衛隊」、字面も響きも似ている両者ですが中身は異なっており、前者は単一の部隊が常時なのに対して、後者はローテーション(交代)で誰でもその任に就くのです。
その代表例が音楽隊でしょう。海上ならびに航空自衛隊の音楽隊は基本的に基地警備に就くことはありませんが、陸上自衛隊の音楽隊は他の部隊と交代で駐屯地警衛にあたります。
なぜ、陸上自衛隊のみこうしているかというと、野外での活動を想定したシフト制ともいえる勤務体系だからで、ひと昔で言う「不寝番」や、拠点の周囲を警戒する「歩哨」の役割を普段から訓練しているともいえます。
ちなみに海上自衛隊に関しては、ひとくちに基地と言っても艦艇が所在する場所は「基地」、航空機を運用する飛行場は「航空基地」と呼び名を変えています。そのため、一目で何を運用しているのか、わかるようになっているとも言えるでしょう。

ここで気になるのが、陸自には「分屯地」、海自には「地区」、空自には「分屯基地」があるという点です。
これは、それぞれ親となる「駐屯地」や「基地」があって、人事や総務、給与や糧食、会計などは大元の「駐屯地」や「基地」が司り、部隊を運用するために必要な最低限の機能だけを「分屯地」や「地区」、「分屯基地」に分派しているということになります。
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小松基地のBX。基地は英語で「ベース(BASE)」なので、なかの売店は「ベース・エクスチェンジ(Base Exchange)」となる(武若雅哉撮影)。
そのため、分屯地司令や分屯基地司令には、駐屯地司令や基地司令よりも一段格下となる指揮官が就いています。ただし、海自の「地区」に関しては「地区司令」というポストは存在せず、それぞれの地区に所在する部隊長が地区司令のような職務を兼務しています。
ちなみに、駐屯地と基地では売店の呼び名も違います。前者は「駐屯地=POST」なので「PX(ポスト・エクスチェンジ)」、後者は「基地=BASE」なので「BX(ベース・エクスチェンジ)」となっています。なお、駐屯地の英語表記は「CAMP」が良く使われますが、国土交通省が設置している道路標識では「STATION」という表記も見られることからブレが生じています。
これについては、陸上自衛隊では駐屯地の英語表記として表向きにはイメージしやすく「CAMP」と表記しているものの、内向きには「STATION」を使用していることから、もしかしたら行政文書なのか否かによって使い分けているのかもしれません。
ちなみに、こうした違いは駐屯地や基地などの一般開放日に発見することができます。これらの他にも両者の違いを発見できる場合もあるので、公開イベントなどで訪れた際には細かいところにまで目を配ってみてください。ひょっとしたら新たな発見があるでしょう。