【千葉魂】いつか来る出番に向け 千葉ロッテ大下、三つのグラブ準備(第432回)

「緊張したああ」。試合後、大下誠一郎内野手の心からの叫びが廊下に響き渡った。8月2日、京セラドーム大阪で行われたバファローズとの一戦。試合は1点差を争う攻防で終盤に突入していた。両軍、次々と策が打たれ、試合が動く。九回の攻撃で塁に出た中村奨吾内野手に代走が告げられた。スタメン出場をしていた三塁手の交代はすなわち、大下にとって久々の出番を意味していた。ベンチでコーチから「大下、三塁行くぞ!」と出番に向けて準備を促す声が飛んだ。
「いざ、久々に守備固めでいくとなると緊張しました。もちろん、いつ呼ばれてもいいように準備をしていますけど、緊張しました。しかも1点差。相手は古巣。もう気合しかないなあとできる限り、声を出して守りました」と大下。
7月7日のライオンズ戦(ベルーナドーム)以来のサード守備。相手は一昨年まで在籍をしていたバファローズ。試合前練習ではスタンドのファンからもいつも以上に声援が飛んでいた。僅差と古巣の本拠地。さまざまな想いも重なり、守備の姿勢についた。打球こそ飛んでくることはなかったが、声を張り上げ、味方を鼓舞し試合を勝利した。緊張感から解き放たれた男の表情が印象的だった。
大下は試合出場のチャンスを広げようと今年からは捕手にも挑戦をしている。一塁、三塁、捕手。三つのグラブをいつも持参し、毎日、試合前はそれぞれの練習を元気よく繰り返す。チームでは三つのポジションをこなす貴重な存在として、基本的な役割は今回のようなバックアップ。いつ来るか分からない出番に向けて毎日、最善の準備を繰り返し、集中力を維持している。それは決して簡単なことではない。
「もちろんキツイ部分はあるけど、俺に任された仕事。だから俺にしかできないと思っている。オレにしかできない仕事と粋に感じながら頑張っている」と大下。
攻撃の合間にはキャッチャーとしてピッチャーのキャッチボール相手を務める。そしてピッチャーを送り出し守りに入ると、出番に備え準備をしながらベンチで声を張り上げ、チームを鼓舞する。複数のポジションで出場機会の可能性があるからこそ、その備えも多岐にわたる。どこでどんなアクシデントが起こるかわからない。だから最初から最後まで緊張感を維持しなくてはならない。ここまで試合出場こそ少ないが、まさに縁の下の力持ちとしてチームに欠かせない存在だ。
「今、頑張らなくていつ頑張る。今しかできないこと。悔いが残らないように日々、気合でガムシャラにやるだけやと思う」。大粒の汗を拭いながら、そう言って大下は毎日、元気よくグラウンドに飛び出していく。漢(おとこ)大下がマリーンズの快進撃を支えている。
(千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章)