注目の働き方「パラレルキャリア」とは – 副業とどう違う? メリットやデメリット、注意点などを解説

フリーランスや副業など多様な働き方が広がる中、近年では「パラレルキャリア」という働き方にも注目が集まっています。パラレルキャリアとは、報酬の有無にかかわらず、複数のキャリアを形成することを意味する言葉です。ただ、本業以外の仕事をする「副業」との明確な違いがわかりづらいという人も多いかもしれません。

そこで今回は、パラレルキャリアとはどのような働き方なのか、副業との違い、また、パラレルキャリアのメリットや注意点・デメリットなどについてまとめました。

■「パラレルキャリア」って何? 副業との違いは
<パラレルキャリアとは>

パラレルキャリアとは、経営学者のピーター・ドラッカーが著書『明日を支配するもの-21世紀のマネジメント革命』の中で提唱した概念で、「人生を豊かにする第二の活動」を本業以外に持つことを意味する言葉です。

パラレルキャリアはキャリア開発やスキルアップ、本業では得られない経験、自己実現などを目的としており、必ずしも収入が伴うとは限りません。第二の活動には、別の企業での就業や自営業のほか、非営利目的のボランティア活動や趣味の活動なども含まれます。

パラレルキャリアの例としては、たとえば、会社勤めをしながらNPO団体に所属して活動する、休日に地域の子どもたちにサッカーを無償で教えるなどが挙げられます。また、本業とは別の企業で働くほか、今勤めている企業の他部署で仕事をすることもパラレルキャリアにつながります。

なお、全ての仕事や活動に本業と同じように取り組むこともあるため、パラレルキャリアは「複業」とも言われています。
<副業とパラレルキャリアの違い>

「副業」との最も大きな違いは、副業が収入増を主な目的にしているのに対し、パラレルキャリアはスキルアップや自己実現を主な目的にしていることです。また、副業は本業に対しての「サイドビジネス」であり、あくまで本業が主体であるため、時間配分などがパラレルキャリアとは異なります。

さらに副業では、本業で得た知識やスキルなどを活かして取り組むことも多いですが、パラレルキャリアでは本業とは全く関係のない仕事や活動に取り組むことも多いです。

ただし、副業でも本格的に取り組んでいる場合はパラレルキャリアと考えられるケースもあります。特に、将来的な独立を見越して副業をしているなら、実態としてはパラレルキャリアに近いと言えるでしょう。
<パラレルキャリアに注目が集まる背景>

では、近年パラレルキャリアという働き方が注目を集める背景には、どのような要因があるのでしょうか。

・雇用システムの変化や生き方・働き方の多様化

「人生100年時代」と言われる昨今、個人の価値観や人生観は大きく変化しています。また、終身雇用や年功序列など従来の雇用システムにも限界がきており、これまで以上に自分自身のキャリアを主体的に考えることが求められるようになりました。

自分はどう生きたいのか、どのように働き社会に貢献したいのかを考える機会が多くなったことで、ライフスタイルやワークスタイルも多様化が進んでいます。

・企業寿命の短命化

「企業寿命の短命化」もパラレルキャリアが注目される要因の一つです。不透明な時代の中、定年退職する前に企業が寿命を迎えてしまい、再就職先を探さなければならないというリスクが高まりつつあります。その際、複数のキャリアを持っておけば、いざという時の転職や再就職にも柔軟に対応できる可能性があります。

・企業側のメリット

近年では、「パラレルキャリアを推奨することは、企業にとってもメリットがある」ということが認識されるようになってきました。たとえば、本業以外で培った知識やスキル、経験、マネジメント能力は本業の仕事にも役立ち、企業の業績や競争力アップにもつながるでしょう。

また、生き方や働き方の多様性を認めることで、従業員のモチベーションを向上させられるという効果も期待できます。パラレルキャリアは個人の経験や利益になるだけでなく、企業にとっても有益であるという考え方は、今後ますます広がっていくでしょう。
■パラレルキャリアの3つのタイプ

パラレルキャリアは複数のキャリアを形成する働き方ですが、働き方のタイプによっていくつかの種類に分類することができます。ここでは、主なものとして「ベーススキルアップ型」「自己実現追求型」「新たなキャリア開発型」の3つのタイプをご紹介します。
<ベーススキルアップ型>

ベーススキルアップ型は、すでに持っているスキルや経験を活かし、さらにその範囲を広げることを目的としています。たとえば、企業に勤めるWebエンジニアが自身の技術を活用し、プライベートで作ったシステムを個人向けに販売してキャリアの幅を広げるといったことができます。

このタイプは、現在の業界や職種において、自分の能力を最大限に活かすことを目指しています。
<自己実現追求型>

自己実現追求型は、自分のやりたいことが明確になっており、夢や情熱を追求することに重点を置いています。このタイプの多くは、本業とは異なる分野での活動を通じ、自分自身のやりたいことを実現します。たとえば、日中は会社員として働きながら、夜や週末にはアーティストとしての活動を行う、などが該当します。
<新たなキャリア開発型>

新たなキャリア開発型は、現在のスキルを活かしつつ、全く新しい分野に挑戦するタイプです。このタイプは、自分の専門分野を超えて、新しい知識や技術を習得し、異なるキャリアパスを開拓することを目的としています。たとえば、マーケティングの専門家がデータサイエンスの分野に進出することで、新たなキャリアを形成することができます。

ただし、パラレルキャリアの3つのタイプは明確に分けられるものではなく、それぞれが重なり合う複合型というケースも多くあります。パラレルキャリアへの挑戦を考えている人は、自分の持つスキルやその活かし方などを棚卸しし、どのような方向性でキャリアを形成していきたいのか考えてみましょう。
パラレルキャリアのメリット6選
では、パラレルキャリアを経験することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。主なメリットを6つ挙げてみました。
1.スキルや経験を早く積める

複数のキャリアを持つことで、異なる分野でのスキルや経験を同時に積むことができます。本業では担当できない業務や、関わるまでに時間のかかる業務でも、他のキャリアでは挑戦できる可能性もあるでしょう。これにより、特定の業界や職種における専門性を高めるだけでなく、キャリアの選択肢を広げることにもつながります。
2.視野が広がり多様性が身に付く

異なる職業を経験することで、新しいアイデアや異文化理解の機会が増え、視野が広がります。本業の会社では当たり前とされていることでも、一歩社外に出れば、決して当たり前ではないと気づくこともできるでしょう。社外の人の視点やフィードバックが得られることで、さまざまな価値観に触れ、多様性が身に付けられるのもパラレルキャリアのメリットです。
3.本業以外でのつながりが生まれる

本業のみの場合、仕事における人間関係は同僚や取引先の人などある程度限られてしまいます。しかし、パラレルキャリアによって複数の職業や活動を経験すれば、さまざまな業界やコミュニティとのネットワークを築くことができます。

これにより、人生や仕事へのヒントを得られるだけでなく、新たなビジネスチャンスやキャリアの機会を生み出す可能性もあります。
4.マネジメントスキルが身に付く

パラレルキャリアを実現するには、本業を疎かにせず両立することが前提です。そのためには、時間や費用などをうまく管理しなければなりません。時間をどうやりくりするか、収支はどうなっているのかを管理する中で、自ずとマネジメントスキルが身に付きます。

マネジメントスキルはどの職業においても重宝されますし、独立・起業した時にも役立つでしょう。
5.人生が豊かになる

パラレルキャリアとして複数のキャリアを形成すれば、今とは違う働き方を望む時のステップアップにもなります。また、本業以外にも仕事を持てば、収入が上がり生活の質を向上させることもできます。キャリア形成と収入アップにより、人生がより豊かになる可能性があります。
6.今後のキャリアを考えるきっかけになる

本業を持ったうえで複数のキャリアを経験すれば、経済的に安定したまま今後のキャリアについて考え、自己実現につながる一歩を踏み出すことができます。また、収入源を分けることでリスクヘッジを図ることも可能になります。
■パラレルキャリアの注意点・デメリット6選

パラレルキャリアにはさまざまなメリットがありますが、一方で注意したい点やデメリットもあります。どのような注意点・デメリットがあるのか見てみましょう。
1.勤め先が副業禁止でないか確認する

まず、勤め先の就業規則で副業についての規定を確認しましょう。最近では副業を解禁する企業が増えましたが、中には副業禁止のところもあるため注意が必要です。

また、基本的には副業可でも、セキュリティや情報漏洩の観点から同業他社での副業は禁止という企業もあります。判断に迷った場合、上司や担当部署に相談してみましょう。
2.時間や収入を自分で管理する必要がある

パラレルキャリアにおいてタイムマネジメントや収支管理は欠かせません。はじめは自分のペースを掴むのに苦労するかもしれませんので、もう一つの仕事や活動は短時間で始めるなど工夫しましょう。また、収入が発生する場合は確定申告が必要なケースもありますので、注意しましょう。
3.継続的なスキルアップが必要

どのような働き方にも言えることですが、個人で仕事をする場合は特に、継続的なスキルアップが求められます。市場は常に変化していますので、新しいスキルを身につけ、既存のスキルを磨くことで競争力を保つことができます。現状に甘んじず、継続的なスキルアップを意識しましょう。
4.目的が明確でない場合、中途半端に終わってしまう

やりたいことベースで新たなキャリアに挑戦できるのはパラレルキャリアのメリットですが、自分なりの目的を明確にしないと、結果が出ず中途半端なまま終わってしまう可能性もあります。パラレルキャリアを始める前に、キャリアを広げた先で将来的にどうなりたいのか、目的やゴールを決めておきましょう。
5.本業を疎かにしない

パラレルキャリアは、本業と並行して別の活動に取り組むことが前提です。そのため、まずは本業を疎かにしないことを心がけましょう。

本業以外の仕事・活動に費やす時間やエネルギーによっては、本業に支障をきたすこともあります。「どの仕事・活動も公平に取り組みたい」と考える人でも時間やエネルギーの使い方はうまくコントロールし、複数のキャリアを両立させましょう。
6.周囲の理解が得られないこともある

企業がパラレルキャリアを認めていても、同僚や上司の理解が得られないこともあるでしょう。中には、社外での仕事をよく思われなかったり、不信感を持たれたりするケースもあります。トラブルにつながらないよう、できる限り活動について伝えておくことが大切です。
■本業以外の知識や経験、人脈が得られるパラレルキャリア

パラレルキャリアという働き方は、本業では得られない知識や経験、人脈などを手にできる可能性があります。必ずしも収入につながる活動ばかりではないかもしれませんが、将来の財産としてきっと役立つ日が来るでしょう。

今とは違うキャリアを形成してみたい、別の仕事で夢を叶えたい、報酬を問わず社会に貢献したいといった気持ちがある人は、パラレルキャリアという道を検討してみてはいかがでしょうか。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら