作家・実石沙枝子さんがデビュー2作目「物語を継ぐ者は」刊行…「中学生から大人まで感想を共有できる本になれば」

2022年に小説現代長編新人賞奨励賞を受賞した静岡市出身の作家、実石沙枝子さん(28)が、このほどデビュー2作目「物語を継ぐ者は」(祥伝社、税込み1870円)を刊行した。亡き伯母の未完の遺作を書き継ぐ14歳の少女が、現実と小説の世界を行き来しつつ、成長していくストーリー。子どもだけでなく、大人も楽しめる青春物語だ。読書の秋を前に、実石さんをインタビューした。(取材、構成=甲斐 毅彦)
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小説家にとって、第2作は鬼門だ。デビュー作は温めていたものを全力で作品に込めれば乗り切れるが、そこで出し切ってしまうことも珍しくない。第1作「きみが忘れた世界のおわり」(講談社)は好評だったが、実石さんは不安な日々を過ごしていた。
「2作目が出なかったら嫌だな、とは正直かなり思っていましたので…。心臓、バクバクでした」
デビューから半年以上たったある日。祥伝社の見知らぬ編集者からメールが届いた。「うちでも是非」という執筆の依頼だった。デビュー作と、その後「小説新潮」に掲載した短編が目に留まったのだという。
「人ってうれしいと踊るんだなと(笑い)。ヨッシャー!っとひと踊りしてから、是非と返信しました」
作品のテーマは、すでにできていた。誰かの遺作を誰かが引き継ぐ―。「伯母」と「14歳の中学生・結芽(ゆめ)」を登場人物に設定すると、プロット(あらすじ)は「スルスルッと」浮かんできた。
結芽は事故で急死した伯母の部屋で、小学生の頃から愛読していた児童書「鍵開け師ユメ」シリーズの原稿を見つけ、その作者が伯母であったことを初めて知る。未完の続きを書くことを決意した結芽は、ファンタジーと現実の世界を去来するようになり…。
「本当にノリノリで書いてたので、楽しくてしょうがなくて。結芽と一緒に冒険しながら、頑張れーという気持ちで書いていました。楽しかったです」
中学生が夏休みに読んでくれたら、という思いで書いた作品は、大人にも読まれた。ネット検索して「自分が14歳の頃に読みたかった」という感想を見つけた時には「我が意を得たり」と思ったという。
「大人にはそう感じてほしかったのでうれしかったです。中学生ぐらいから大人まで皆楽しめて感想を共有できる本になれば。子どもは信頼できる大人に薦めてみてほしい。大人は好きそうな子に薦めたりということが起こればうれしいです」
生まれも育ちも静岡市。この作品も、結芽の母の実家が静岡という設定だが、今後は大好きな郷里を舞台にした小説やエッセーも書いてみたいという。
「本当に静岡が大好きなんです。市街地や山奥、海や川…。大都会以外なら何でもある。私は見たものを参考にしないと書けないんですけど、あらゆる景色のサンプルを採取できるいい所だなと思います」
◆実石 沙枝子(じついし・さえこ)1996年5月21日、静岡市生まれ。28歳。「別冊文藝春秋」新人発掘プロジェクト1期生。通信制高校を卒業後、小説の執筆活動に入る。第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞受賞。22年のデビュー作「きみが忘れた世界のおわり」で、第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。今年12月に第3作を刊行予定。特技はアイスの早食い。