2022年2月以降、行くことが難しくなった東欧ウクライナ。首都キーウには旧ソ連機などが多数集まるウクライナ国立航空博物館があります。かつて同国に住んでいた筆者が往時の博物館を振り返ります。
ウクライナの首都、キーウ市内唯一の空港であるジュリャーヌィ国際空港に隣接する形で、同国最大の航空博物館「ウクライナ国立航空博物館」が存在します。
旧ソ連のレア機ズラリ ウクライナ航空博物館を元キーウ市民が振…の画像はこちら >>キーウ市内唯一の空港であるジュリャーヌィ国際空港に隣接して設けられているウクライナ航空国立博物館。ほとんどの航空機が野ざらしでの展示(大久保 光撮影)。
そもそも日本からキーウへ飛行機で行く場合、同市近郊にあるボルィースピリ国際空港を使うことが多いです。元々ソ連時代にはジュリャーヌィ国際空港がメイン空港でしたが、空港自体が市内にあるため、時代が進むにつれ、高速・大型化していった旅客機に、空港施設の拡張整備がついていけなくなりました。
その結果、ウクライナはキーウ郊外に新しくボルィースピリ国際空港を開設。こちらをメイン空港に据えたため、ジュリャーヌィ国際空港は地方空港へと格下げされ、今ではLCCをメインにヨーロッパ便が主要路線となっています。
ただ、ジュリャーヌィ空港にはウクライナ空軍の基地が併設されていたり、前出のようにヨーロッパ近距離便を数多く受け入れていたりと、ウクライナにとって重要な国際空港の1つであり、キーウ市民にとって交通の要所であることに変わりはありません。隣接する形で設けられた航空博物館自体もとても大きく、敷地面積が広いため大型機が数多く展示されているのも特徴といえるでしょう。
しかし、ほとんどの飛行機が野ざらし展示となっているため、お世辞にも保存状態が良いとは言えないのが残念なところでもあります。なお、2023年1月現在では、ロシアと事実上の戦争状態にあるため、日本からウクライナへ行くことができません。そのため、記事に登場する写真や内容については戦争が起こる前、2017年と2021年のものとなります。
博物館の中に入り、まず目に飛び込んでくるのは歴代のソ連時代の戦闘機の数々です。MiG-15からMiG-29までのいわゆる「ミグシリーズ」に加え、Yak-3やSu-15TMなど日本ではあまり知られていないマイナー機まで多種多様な機体を見て回ることができます。
加えてこれら以外にも、大型ヘリコプターのMi-6やMi-26、艦載型ヘリコプターKa-25などが展示してあります。さらに奥へと進めば、その先には別エリアとして大型機の展示コーナーが設けられています。そこには、ソ連邦が崩壊し新生ウクライナが誕生した当時に、旧ソ連軍からそのまま引き継いだTu-22M爆撃機やTu-142(Tu-95爆撃機の対潜哨戒機型)なども展示されており、博物館としてのボリュームは満点です。
では、その中でも筆者(大久保 光)が注目した3機種についてスポットを当ててみたいと思います。
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キーウ市内唯一の空港であるジュリャーヌィ国際空港に隣接して設けられているウクライナ航空国立博物館。ほとんどの航空機が野ざらしでの展示(大久保 光撮影)。
この博物館の展示機でもレアといえるのが、ヤコブレフYak-28Uです。この機体は1958年に初飛行し、最終的に700機ほど生産された超音速戦闘機Yak-28の派生型といえるものです。
同機には原型の戦闘機型以外に、爆撃機型、偵察機型、電子戦機型、そして練習機型と数多くのバリエーションがあり、ウクライナ空軍でも過去、戦闘機型を運用していたことがありますが、展示されているのは、練習機型Yak-28Uの方です。
練習機ゆえ、他のタイプとは一味違った形をしているのが特徴です。コクピットは2か所に分離し独立していますが、これは教官と訓練生が分かれて乗り込む形としているからだとか。原型のYak-28自体が、米英仏といった西側製の戦闘機と異なる一種異形な形をしていますが、それに輪をかけてコックピット部分も変わった外観の同機、ぜひ一度は本物を見てもらいたいと感じる航空機のひとつです。
一般的に「ミグ」と聞いて思い浮かぶのは、1万機以上生産され今も多くの国で飛び続けているMiG-21や、朝鮮戦争などで活躍したMiG-15、函館空港に緊急着陸し日本へ亡命を果たしたベレンコ中尉が搭乗していたMiG-25などでしょう。ただ、筆者はあえてMiG-19を推します。
MiG-19自体は、見た目が従来型のMiG-15や-17とあまり変化していないため、いうなれば地味かもしれません。ただMiG-15や-17と違いエンジンが双発であることから、そのおかげもあって最高速度が約1400km/hと、マッハ1を超える飛行に成功したソ連初の戦闘機でもあります。
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キーウ市内唯一の空港であるジュリャーヌィ国際空港に隣接して設けられているウクライナ航空国立博物館。ほとんどの航空機が野ざらしでの展示(大久保 光撮影)。
またMiG-19は各国に輸出され、中国などではライセンス生産からさらに独自に魔改造されQ-5攻撃機という新型にもなり、いまだに現役で使われています。MiG-19は1952年の初飛行以来、70年以上にわたって飛び続けているほか、この機体があったからこそ後のMiG-21やMiG-25が開発されたと言っても過言ではないことから、ソ連にとって重要な戦闘機であると個人的に思っています。
VTOL(垂直離着陸)戦闘機といえば、イギリスが独自開発した「ハリアー」や、日本が導入を決めたことでも話題になったアメリカ製F-35B「ライトニングII」などが有名ですが、冷戦中のソ連でも実用化されていました。それがYak-38です。
なお、世界初の実用VTOL戦闘機はイギリスの「ハリアー」ですが、このYak-38は当初からソ連のキエフ級航空母艦に搭載することを目的に開発・実用化された機体で、ゆえに世界初の艦上VTOL機として認定されています。
「ハリアー」の艦載機仕様である「シーハリアー」よりも初飛行で7年ほど早く、なおかつ艦上運用を考慮して主翼の折り畳み機構などが盛り込まれていました。機体の色も当時のソ連のものとは違い海上で目立ちにくい青をベースとしたカラーとなっています。ただ、実用性に乏しかったことや事故の多さなどから、あまり飛ぶことなく退役しています。
Yak-38は、間違いなくソ連当時の最先端技術が詰まった、ソ連機の挑戦の象徴といっても過言ではない機体だと思います。たとえるなら、冷戦時代、西側諸国に負けないというソ連のプライドを見受けることができる戦闘機といえるのではないでしょうか。細かい性能などはともかく、このソ連唯一の実戦配備された垂直離着陸機を実際の目で見ていただけたらと思います。
なお、軍用機だけではなく、民間機もとうぜん展示されており、アエロフロート航空で活躍したIl-62や輸送機のIl-76、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)ではいまだ現役と言われているAn-2汎用機なども展示されているため、航空機ファンならここだけで一日中飽きずに過ごすことができるでしょう。
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2万機近く生産された一大ベストセラー複葉機An-2。ウクライナのアントノフ設計局が開発した名機である(大久保 光撮影)。
前述したように、2022年2月以降、ウクライナは戦争の影響で簡単に行ける国ではなくなってしまいましたが、戦火が収まったら、その際には是非訪問し、ウクライナ国立航空博物館へと足を運んでみてください。
ちなみに、博物館のある首都キーウは東ヨーロッパ特有の外観を持つ建物が並ぶとともに、日本食を提供する店も多い素敵な街です。プロライダーとしてヨーロッパ各地を転戦する筆者からしてもウクライナは居心地がよく2年半も滞在していました。
ウクライナを愛する日本人のひとりとして、最後になりましたが一刻も早く同国での戦争が終結することを心より願います。