慣れてないヤツ手出し厳禁!?「自衛隊式BBQ」に参加してみた「日ごろの訓練がいかんなく発揮されている…」

屋外レジャーの代表格であるバーベキューは、準備や後片付けがしんどいもの。しかし、それを「団結力」と手際の良さで乗り切ってしまうのが自衛隊だとか。もはや手出し無用な自衛隊のBBQ、その実態とは。
厳しい残暑もようやく落ち着き、行楽シーズンがやってきました。気持ちのよい空気の中、気の合う仲間とBBQ(バーベキュー)を楽しむ人もいるかと思いますが、アウトドアは自衛官にも大人気のレジャーで、家族サービスの一環でこの時期、部隊や部署単位で公園や河川敷、砂浜などに集っていることが間々あります。
私(たいらさおり:漫画家/デザイナー)の夫であるやこさんも海上自衛官のため、家族でのBBQにたびたび誘われます。
慣れてないヤツ手出し厳禁!?「自衛隊式BBQ」に参加してみた…の画像はこちら >>自衛隊中央観閲式における海上自衛隊部隊の徒歩行進(柘植優介撮影)。
ただ一般的にBBQというと、なんとなく食材の準備と配膳は女性、火おこしや荷物運びは男性、焼くのはみんなでワイワイ……、という役割分担になることが多いのではないでしょうか。じつは、自衛隊式BBQではその方式は当てはまりません。
まず、会場についた時点でBBQ台は設置してあり、あとは焼くだけの状態となっています。この時点でおかしいのですが、それはメンバーの中にたいてい1人は「誰よりも早く来てBBQを全力で楽しみたい隊員」がいるためで、なんならBBQ台も私物であることが多いです。
準備してくれたのなら、食材の下ごしらえや肉焼きぐらいはやらなきゃと気を回そうとするも、すでに焼かれた肉と飲み物は用意されており、いつの間にやら手元に。気がつけば、隣にいたはずのやこさんも“肉焼き分隊(チーム)”に組み込まれており、空いたスペースに効率よく肉を並べています。隣では“野菜焼き分隊”がピーマンを裏返しています。何もなかったはずの作業台には、横須賀市のめんどくさい分別を網羅したゴミ捨てエリアすらできています。なんだろう、やけに手慣れた感のあるスムーズな連携は……。
そう、海上自衛隊は職種により分隊が分かれており、艦を動かすための効率的な人員編成がなされているため、BBQにおいても無駄なく最大効率で肉を焼き、ノンアルビールで流し込むことができるのです。ちなみに自己完結組織のため、機械の故障やトラブルなどもたいていなんとかできる隊員が1人はいるので安心です。
とはいえ、もてなされっぱなしでは申し訳ないと思い(気が利く妻を演じようと)、飲み物を欲している人を探して周囲を見渡しますが、どう見ても全員のコップが常に満タンではないですか。
「おかしい……」落ち着こうと、自らのお茶を飲み干したところ、横からすかさず「おかわりどうぞ」と爽やかな笑顔の隊員が、お茶を注いでくれました。“飲み物分隊長”はあなたでしたか。「ごん、お前だったか」の“ごんぎつね構文”をここで使うとは思いませんでした。
そんなわけで、まったくもって付け入るスキがなく(やることがなく)、棒立ちで肉を食べる私。よく見ると、他の隊員の家族も楽しみながらもどこか手持ち無沙汰そうに肉を食べていました。隣の奥様に「ご主人、いつもこうなんですか?」と聞くと、「そうなんです……、家で鍋をしてもやることがなくて」と苦笑い。
「わかります、わかりすぎます」我が家でも、自宅で鍋や焼き肉をやる際は、やこさんが全て仕切るため、私も娘もお皿に食材が運ばれてくるのを待つのみという、たとえるなら殿様気分とでもいえる、何とも言えない空気感を味わっているのです。
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バーベキュー(BBQ)は陸海空の各自衛隊でレクリエーションの一環として盛んに行われている(画像:陸上自衛隊)。
爽やかな風の中、どこからともなく「肉をもらってない人いますか!」「オレンジジュース開けました!」などの声が飛び交います。こんなにせっせと働く隊員のみなさんは、きっとお肉を食べる暇もないのだろうと思いきや、あれだけあった食材は姿を消し、買い出し部隊が近くのスーパーで肉を大量に追加購入してきました。
なんなら我々民間人以上に食べている……。やこさんに聞くと「教育隊などでは、限られた時間の中で食事をしなければならないからね」と返されました。出港中も、寄港地などでは限られた時間の中で楽しむ弾丸ツアーを組む隊員もいると聞きます。
骨の髄まで染みついた自衛官魂、それはBBQにおいても発揮されていました。
このような「職業病」ともいえる手際の良さは、後片付けでもいかんなく発揮されます。お腹いっぱいだから、片付けを手伝おうかと踏み出すと、すでにいつでも撤収できる光景が広がっていました。
ゴミ1つなく、そこにいた形跡すら残さないのも訓練の賜物でしょうか。結局なにもすることなく、もてなされただけのBBQ、ちょっぴり申し訳なく思うものの、休日に主婦業を休ませてくれたことには、感謝しきりでした。