子育て支援に注力し10年連続人口増…移住先に選ばれる明石市で見えた行政のヒント「子供の施策は未来政策」

日本の少子化問題は、岸田首相も最重要課題として取り上げてはいるが歯止めが利かない。しかし、全国の自治体では、子育てに関する5つの無料化を実現したところ、「移住」する人が増加した自治体がある。その現場を取材すると、いま行政が考えるべきこども政策のヒントが見えてきた。
愛知県豊川市にある「集いの広場MAH(マー)」。保育園や幼稚園に入る前の子供とその親が、無料で遊ぶことができる子育て支援施設だ。
この日は、満員になるほどにぎわっていた。訪れていた母親に話を聞くと豊川市は子育てがしやすい街だという。母親:「めちゃめちゃしやすいです。ビックリしました。児童館いっぱいあって」別の母親:「医療費も無料だったりとか」また別の母親:「2人目がもし生まれても大丈夫かなと思います」豊川市では「子育て支援」に力を入れていて、中学生までの医療費は無料、3歳から5歳までの保育料も無料だ。
1歳の誕生日には、3万円を支給する「ファーストバースデーお祝い金」もあり、様々な政策で「子育て」を後押ししている。
この豊川市で、東三河の自治体で唯一、ある現象が起きていた。豊川市企画政策課の瀬野正章課長:「国勢調査で人口が増えた。子育て支援というものが効果を発揮しているとはとらえています」人口流出が相次ぐ東三河地域で唯一、人口が増加した。
子育てのしやすさを打ち出す豊川市。2022年12月、東京都中央区で開かれたシティープロモーションのイベントでは「子育て」を売り文句にしたパンフレットを配り、豊川市への移住をPRしていた。

瀬野課長:「人口減少を意識するなかで、子育て支援は重要になっていますので、重点的に予算を充当していった。住みたい、住み続けたいと思っていただける街づくりにとって重要だと考えております」
この豊川市のように「子育てと移住」はいま、人口減少を食い止めるキーワードになっている。その「成功例」といわれるのが、兵庫県の明石市だ。明石市は、日本の標準時子午線が通ることでおなじみの、瀬戸内海に面した人口30万人の街。
岐阜県多治見市出身の古川伶(ふるかわ・れい)さん、33歳。
1歳の長女・絵麻(えま)ちゃん(1歳8か月)と、妻・ゆりかさん(35)との3人暮らしだが、結婚した4年ほど前に明石市に移り住んだ。
古川伶さん:「将来的には安心して子育てできるところを探していまして、働いて関西に出てきて、魅力的に感じて(明石市に)住もうと思って」職場は姫路市で通勤に1時間以上かかるが、明石での暮らしを決めたポイントが「子育て支援」だ。この日、ゆりかさんと絵麻ちゃんが訪れたのは、市の子育て支援センター。
古川ゆりかさん:「ハイハイする前からここに来ていて。なので1年くらいは(来ている)。お母さんが忙しそうだと、職員の方が『ちょっと見ていましょうか』とか案内してくれるので助かっています」この支援センターには、保育士資格を持つスタッフが常駐している。
9500冊もの本が読み放題。

たくさんのおもちゃや、ボールプールなども全て無料。(※市外の人は一部有料)
中学生と高校生が無料で使える自習室や、音楽スタジオまでも整備されている。
あまりの充実ぶりに「まだ遊びたい」と泣き出した子供もいた。
かなり充実した施設だが、明石市の子育て支援はこれだけではない。明石市で3歳と1歳の兄弟を育てている女性に、自宅で話を聞かせてもらった。
リビングには当然おむつがあったが、全て「無料」で市から送られてきたものだという。3歳と1歳児の母親・田中有香里さん(34):「これが2パック、毎月届くんです」
明石市が子育て支援で行っている「おむつ定期便」。1歳まで毎月おむつを市が届けてくれるが、銘柄も指定することができる。
田中さん:「(子供)2人連れてだと手に持つのが大変なので、届けてもらえるっていうのがありがたいです」配達するのは子育て経験がある女性スタッフで、子育てに関する相談などもできるという。田中さん:「1か月に1回『どんな感じですか』って、体調や発達のこととか相談しながら、おむつももらって。サポートがすごくしっかりしているので、子供何人いてもいいかなと」
このほかにも、明石市では子育て支援策として「5つの無料化」を掲げていて、医療費は18歳まで無料。給食費や第2子以降の保育料も無料になっていて、いずれも親の所得制限はない。
明石市が補助する養育費は一般的な自治体にくらべ、子供3人の家庭では年間100万円も多いという。

こうした子育て支援が始まって約10年、効果は着実に表れていた。明石市民の母親:「地元は(兵庫県)加古川市で、実家も違うところです。子供がいないうちから住んでいたんですけど、子育て(の支援)がいいので、長いこと住もうかって夫となって」別の母親:「みんな引っ越してきました。今後を考えたら明石がいいよねって」
また別の母親:「旦那は他県なんですけど、『明石がいいから』ってお願いして」子育てのために移住した人がいたるところにいた。
明石市では、10年連続で人口が増えていて、1人の女性が一生にもうける子供の数=合計特殊出生率も、2011年の1.50から10年間で1.65に上昇した。実際「何があれば子供を欲しいと思うか?」という国のアンケート調査では、教育費や保育料の補助が上位を占めている。
明石市の取り組みは、まさにニーズをとらえた「作戦」だ。
なぜ明石市はこれほど「子育て支援」に力を入れることができたのか。5つの無料化を推し進めた、2023年4月まで市長だった泉房穂(いずみ・ふさほ)市長(取材当時)に話を聞いた。(取材当時は市長)泉房穂市長(取材当時):「もう国も県も市も無駄ばっかりですわ。残念ながら明石もね。無駄遣いをやめて、子供に持っていただけ」「ムダを削っただけ」だと話す泉市長。2011年に市長に就任し、子供関連予算を年間300億円近くにまで倍増させたが、その実現には数々の反対意見が立ちはだかったという。

泉市長:「最初、子供政策をやったとき、批判ありましたよ。一つは高齢者。『なんで高齢者違うねん』と。『待ってください、あとでしますから、ちょっと待ってください』と。商店街は『アーケード作れ』と」高齢者への手厚い支援を求める声や、公共事業を減らした際には建設業界からも批判の的になったという。泉市長:「アーケード作っても客増えませんよと。子供(政策)やった方が客増えますよと。ホンマかって言われて、建設業界も『公共事業減らしたな』って怒るんだけど、公共事業より民間事業が(増えた方が)儲かるんちゃいますかと」泉市長の旗振りのもと、徹底的な行財政改革で「子育て支援」の予算を捻出した明石市。その結果、人口が増え、市の税収は8年間で32億円も増加し、批判された高齢者への支援にもこれまで以上の予算を回せるようになった。
2022年6月、泉市長は、2023年4月の「こども家庭庁」の設立に向けた国の委員会で、子育て支援の重要性を力説していた。泉市長(2022年6月・内閣委員会):「お金がないときこそ子供にお金を使うんです。子供を本気で応援すれば人口減少に歯止めをかけられますし、経済も良くなっていくと私は考えております」
泉市長:「子供の施策というのは未来政策なんです。子供のための政策というのは、子供のためだけじゃなくて、町のみんなのため、自分たちの町の将来のための政策なんですよ。ここは(予算を)やりくりしてでも、そこを最重点化することが、その街にとっての将来に繋がる」未来を担う「子供」。さらに、全ての世代にとって重要となる「子育て支援」。思い切った政策を実行できるのか、いま日本の力が問われている。NEWS ONEでは、シリーズ「コドモのミカタ」で、こどもにまつわるテーマやご意見をメールで募集しています。[email protected]までお寄せください。2023年3月8日放送