福島原発の処理水問題 “対外宣伝下手”な日本は「安全性」をさらに発信すべきだ

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尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領のイニシアティブによって、日韓関係改善への取組が始まっている。3月には大統領が訪日したが、5月7日には、シャトル外交を開始するということで岸田文雄首相が訪韓し、また首脳会談が行われた。
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韓国に対する輸出規制の緩和など、様々な問題が議論されたが、その中でも福島第一原子力発電所の処理水問題がクローズアップされたことは多くの日本人にとっては驚きだったであろう。
実は、私も韓国のマスコミに取材を受け、徴用工問題などと並んで、この問題についても見解を求められたので、処理水が韓国内で大きな関心を持たれていることを再認識させられたのである。
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2011年3月11日の東日本大震災で福島第一原子力発電所が大事故を起こしたことは記憶に新しい。1986年4月のチェルノブイリ原発事故以来の深刻な事故で、炉心融解(メルトダウン)という事態になった。
今年の4月15日にドイツは全ての原発を停止したが、その政策の発端はこの事故である。福島第一原発事故を受けて、当時のメルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故停止中の1基を稼働停止にし、残り9基も2022年末までに段階的に廃炉にする方針を決めた。ところが、ウクライナ戦争によって電力危機が生じたため、実施時期が昨年末から今年の春まで延期されたのである。

福島では、事故によって、放射性物質が広く放出されたが、その後、除染が進み、帰還困難地域も少しずつ減少している。今は、廃炉作業が行われているが、完了は20~30年後になると見られている。
原子炉の中には核燃料(燃料デブリ)があり、これを常に水で冷却しているが、原子炉建屋には雨水や地下水も流入するため、冷却に必要以上の水が溜まってしまう。放射性物質で汚染されたこの水をどこに、そしてどのようにして捨てるかが問題なのである。
そこで、先ずはこの汚染水から放射性物質を多核種除去設備(ALPS、アルプス)を使って除去する。セシウム、ストロンチウム、ヨウ素、コバルトなど、ほとんどが除去できるが、トリチウムは除去できない。ALPSで処理した後の水(これを処理水と呼び、汚染水とは呼ばないようにしている)は、トリチウム濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満まで海水に薄めてから放出される予定だが、これは国の安全基準の40分の1であり、WHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1である。
IAEA(国際原子力機関)も、処理水の海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価している。

トリチウム(三重水素)は水素の一種で放射線を出す放射性元素。自然界にも存在するが、原発の運転や核実験によっても生じる。トリチウムは、酸素と結びついたトリチウム水として、海水、淡水のほか、雨水や水道水などに普通に存在しているし、われわれの体内にも常に数十ベクレルのトリチウムが存在している。

トリチウムの人体への健康影響は、セシウムの約700分の1であり、食品については影響の考慮は不必要なので、食品の基準値の規制対象にはなっていない。
人や魚介類に取り込まれたトリチウムは、水と同様に速やかに対外に排出され、体内に蓄積されたり、濃縮されたりはしない。
処理水は、約1000基の貯蔵タンクに保管されるが、全容量は137万である。東京ドームに水を貯めると124万なので、その量の多さが想像できる。
2023年2月現在で、既に132万メートルまで埋まっている。つまり、96%であり、今年の夏~秋頃には満杯になると見られている。1日に140の処理水が発生するので、そういう計算になるのである。当初は、先述したように、地下水や雨水の流入で、1日に発生する汚染水の量は約500に昇っていたが、それが、様々な対策を講じた結果、今では約5分の1に減っている。
ただ、発生する量よりも多くの量を排出しなければ、保管タンクの容量を超えてしまうことになる。しかし、一気に大量の排出はせずに、少しずつ流していくことになるという。
日本政府は、以上のような安全への取組を行っているが、韓国や中国などはまだ懸念を捨て切れていない。それが、風評被害にも繋がっている。
以上に説明してきたような内容を、政府はもっと内外に発信し、PRに努めるべきである。英語のみならず、中国語、ハングルなどで懇切丁寧に説明するとよい。今は、SNSの活用が効果的であり、図やグラフを使って、多くの人が理解しやすいようにする必要がある。
日本は、対外宣伝が下手である。役人のセンスでは無理である。民間も含めて広く人材を集め、情報発信能力を高めるべきではないか。

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今週は、「福島原発の処理水」をテーマにお届けしました。