高温は、旅客機の操縦にどのような影響を及ぼすのでしょうか。ANA(全日空)のとあるパイロットに聞くと、操縦以外の面で、やはり影響は少なからずあるようです。
2023年7月12日、東京都八王子市で今年最高の39.1度を記録するなど、日本列島に猛暑が襲っています。そんな太陽に近い空へと飛び立つ旅客機、高い外気温は運航にどのような影響をおよぼすのでしょうか。 ANA(全日空)のとあるパイロットによると、操縦の方法や感覚それ自体に大きな変化はないものの、その影響は多方面に及ぶようです。
酷暑で「旅客機の操縦」どう変わる? パイロットに聞いたら想像…の画像はこちら >>ANAの旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。
たとえば、滑走路の長さや路面状態、風向風速や気圧などの条件によって離着陸が可能な機体重量が何ポンドまでかを示す「離陸性能・着陸性能」という数字がありますが、高い気温はこれを低下させるといいます。
加えて空気が薄くなることから、エンジンの性能も低温時に比べて低下、上昇性能も影響をうけ、上昇率も変わってくるとのこと。そのため、パイロットはフライトのたびに入念な性能計算を行うなどして安全性を確保するほか、上昇に要する時間が長くなったり積乱雲が発生したりでベルトサインを点灯するタイミングや長さなども工夫する必要があるそうです。
また特に夏の日中は市街地上空で上昇気流が強く、市街地に近い空港では着陸前の気流のアップダウンが冬よりも大きくなるとも。そのため、着陸のパス(降下角度)キープと速度コントロールに気を払うといいます。
そしてもうひとつ。近年は燃料節減のため、必要滑走路長に余裕があり天候も良い場合は、着陸後の減速時に逆噴射装置(エンジンの噴射方向を変えることで速度を落とす装置)の使用をアイドリングに留める「リバース・アイドル(Reverse Idle)」という手段を用いるそうですが、この使い方も気温の影響を受けるといいます。
「リバース・アイドル」で減速する場合は、有効な減速手段のひとつである「逆噴射」を平時より使用を控えるぶん、タイヤのブレーキへかかる負担が増えます。
同氏によると、とくに高温の状況下では、ブレーキ装置の温度が非常に高くなってしまうことも。この温度が下がるまでにはある程度の時間が必要で、気温が高い日は、当該機が次の便として出発するまでの時間にブレーキが十分に冷えきらないケースがあるといいます。この状態では、次便の離陸時にトラブルでブレーキをかけなければならない場合などに、影響を及ぼす可能性が考えられるそうです。
そのため、気温が高い日の着陸時は、次便までの時間や機体重量(ブレーキにかかる負荷に関係する)、滑走路から離脱する距離を踏まえた自動ブレーキのセッティング(強いブレーキほど温度が上がる)、駐機場までの自走距離などを総合的に考慮して、「リバース・アイドル」を実施するか判断しているといいます。
このほか、日本~北米線といった長距離国際線の飛行ルートも季節で変わります。夏場は冬よりもジェット気流が弱まるほか、積乱雲が高い高度まで発達することもあり、揺れを避けるために回避が必要になる場合も。一方で冬は、降雪時特有のオペレーションや、飛行時の雪雲と雷の対応などもあるそうで、パイロットは四季それぞれの状況に対応しながら、安全運航を続けているようです。