トヨタ車が月を走る? 月面探査車「ルナクルーザー」の開発状況

トヨタ自動車は宇宙航空研究開発機構(JAXA)と協力して取り組んでいる月面探査車「有人与圧ローバ」(愛称:ルナクルーザー)開発プロジェクトの進捗状況を発表した。太陽光と水だけで走る力を生み出す夢のクルマは、はたして開発可能なのか? 説明会で聞いてきた。

○トヨタの宇宙探査車ってどんなクルマ?

トヨタの取り組みは大きくいえばアメリカが進める「アルテミス計画」の一環だ。

アルテミス計画とは、アメリカのNASAが進める月探査、火星探査に向けたプログラムの総称。そのうち、月面探査に使う機械(モビリティ)の分野で期待されているのが日本のモノづくり技術だ。JAXA主導のもと、三菱重工業が月極域探査計画(LUPEX)向けの「LUPEXローバ」、トヨタが月面有人探査に使う「有人与圧ローバ」の開発に取り組んでいる。このほどJAXA、三菱重工、トヨタの3者が各プロジェクトの進捗状況に関する説明会を開催した。

有人与圧ローバのコンセプト案によると、ルナクルーザーのボディサイズは全長6.0m、全幅5.2m、全高3.8m(マイクロバス約2台分)。2人(緊急時は4人)が滞在可能な13㎡(4畳半程度)の居住空間を備え、使い方としては2人が乗り込み、車内で寝泊まりしながら月面を探査して回る感じを想定しているらしい。

JAXAとトヨタが有人与圧ローバの実現に向けた共同研究で合意したのは2019年のこと。開発フェーズは現在、全体システム概念検討、概念設計、要素試作試験などを行う「先行研究開発」の段階まで進んでいる。打ち上げ目標は2029年だ。

○先端技術は地球にも還元可能?

トヨタ 月面探査車開発プロジェクトの山下健プロジェクト長によると、ルナクルーザーのコア技術は「再生型燃料電池(RFC:Regenerative Fuel Cell)」「オフロード走行性能」「オフロード自動運転」「UX」の4つ。

RFCは月にある(とされる)水(氷?)と太陽光で電気を生み出すシステム。これがあれば、燃料補給(あるいは充電)のためにいちいち月面探査拠点のようなところに戻らなくても済むので、遠くまで出かけて行って月面を調べることが可能になる。月は昼と夜が14日間ずつ繰り返す過酷な環境。日照のある昼間に大容量のエネルギーを繰り返し作りだせる小型・軽量なシステムを開発できるかどうかが課題だ。RFCについては今後、月面での稼働を模擬した実証試験で機能・性能を確認していく予定。

オフロード関連は「ランドクルーザー」を手掛けるトヨタなら心配なし……ともいえないくらい、月面というのはエクストリームな環境らしい。道路がないのにクレーターや岩石はある、急な斜面もある、表面は「レゴリス」と呼ばれる細かな砂に覆われているといった具合なので、トヨタとしては4輪独立インホイールモータや転舵機構などを盛り込んだテスト車で走行試験を行ったり、ブリヂストンと協力して金属タイヤを開発したりといった取り組みを進めている。今後は原寸大のオフロード走行テスト車を作って走行性能の開発を進める方針。トヨタの施設内に大規模な月面模擬テストコースを整備し、自動運転機能の開発・評価も進めるという。

UXも重要だ。ルナクルーザーは4畳半くらいのスペースに2人が乗り込み、1カ月間の月面探査ドライブに出かけるためのクルマ。窓の外は(最初は物珍しいだろうが)単調でモノクロームな月面の景色であり、走る路面は常にオフロードなので、乗っている人にしてみればストレスが半端ではない。車内でいかに快適に過ごせるかは大事なポイントになる。今後はモックアップ、ドライビングシミュレータを用いた検証で、ローバの安全性・快適性を向上していく方針だ。

宇宙開発にトヨタが関与すると思うとワクワクするが、これらの技術は地球・人類にも還元できる可能性があるし、むしろ積極的に還元したいというのがトヨタの考えらしい。例えばRFC。水と太陽光だけで走るクルマについては「(RFC)を簡単にクルマに搭載できるかどうかは見極めがついていない」(山下さん)そうだが、離島や被災地で発電用に使うなど、用途はいろいろある。オフロード関連の技術については当然、トヨタ車にも活用できるはずだ。月面を走破できる技術があれば、地球上で走れない場所などなくなるだろう。ランドクルーザーをはじめとするトヨタ製SUVのさらなる進化に期待したい。

「要素技術の社会還元については、打ち上げ目標の2029年を待たずに実現していきたい」と山下さんは話していた。