消防無線記録に「乱射」の2文字飛び交う…3人が死傷した陸自隊員銃撃事件から1カ月余り 見えない“男の動機”

岐阜県岐阜市の陸上自衛隊の射撃場で、隊員3人が死傷した銃撃事件から1か月以上が経ったが、逮捕された18歳の隊員の男はなぜ突然の凶行に及んだのか、その明確な目的は明らかになっていない。
2023年6月14日、2人が死亡、1人が重傷を負うという凄惨な事件現場と化した、岐阜市の陸上自衛隊・日野基本射撃場。
事件発生直後、現場に急行した消防の無線記録を、情報公開請求で入手した。
〈自衛隊からの通報(午前9時15分頃)〉「訓練中に隊員が発砲した。負傷者がいる」
自衛隊から消防に通報があったのは、午前9時15分頃。無線の記録には、出動した救急隊員らとの緊迫したやりとりが記されていた。〈岐阜市消防本部(午前9時21分)〉「岐阜消防から日野南9丁目射撃場へ出場の各隊へ、状況送ります。射撃訓練中の1名が5発ほど乱射し、負傷者が3名いるとのことです」「なお、110番連絡済み。乱射した張本人にあっては、現在取り押さえているとのことです」
やりとりのなかで飛び交う「乱射」の2文字。尋常ではない事態に現場を指揮する消防隊は…。〈消防隊(午前9時22分)〉「活動方針については、現場の安全の確保を再度確認してからの進入とする」そして、通報の約12分後に現場に到着。〈救急隊(午前9時28分)〉「傷病者は3名。救急隊は3隊必要」
凶弾に倒れた隊員3人が、次々と搬送された。
〈付近の住民(6月14日)〉「外を見たら、切迫しているような感じで」Q.叫び声は付近の住民:「『おーい』とか『早くしろ』っていうのは聞こえまして、その後に『AEDを探せ』というのは聞いています」実弾を使った訓練中に、自動小銃を発砲した18歳の隊員の男。25歳の3等陸曹・八代航佑さん(25)と52歳の1等陸曹・菊松安親さん(52)が死亡。
3等陸曹の原悠介さん(25)が大ケガをした。
事件後、死亡した八代さんと親しかった女性が取材に応じてくれた。事件当日、ニュースを見てすぐに八代さんにメッセージを送っていた。
<事件当日夜のLINE>「こーすけ大丈夫?」「きょうニュース見たけど大変だったんだよね…。落ち着いたら既読だけでも」この時はまだ、被害者が八代さんだとは知らなかった。八代さんと親しい知人女性:「ずっと連絡が返ってこなくて、翌日に名前が出てきて。突然の話でびっくりして。衝撃的で、言葉が出なかったですね。でも、返事が返ってこないから、そうなんだなって思って。残念だしなんでなんだろうって思います。納得できないというか」“なぜ”彼が犠牲になったのか。
その“なぜ”は、事件から1カ月が経った今も明らかになっていない。
八代さんと菊松さんに対する「殺人」、そして原さんへの殺人未遂の容疑が持たれている18歳の男。
捜査関係者によると、現場で逮捕された直後には犯行について供述していたものの、その後、弁護士の接見後「黙秘」に転じたという。男は射撃訓練の待機場所にいた際に、勝手に自動小銃に弾薬を装填し、それを止めようとした八代さんを銃撃した。
その後「弾薬係」として後方にいた、菊松さんと原さんに立て続けに発砲したとみられている。
3人は男を直接指導する立場ではなかったが、発砲した理由について、男は事件直後「銃と弾薬を外に持ち出したかった」「(八代さんに)『おまえ何やってんだ、やめろ』と言われ、自分の行為を邪魔されると思って撃った」と供述したという。また、関係者によると、取り調べの際に八代さんの名前は挙げたものの、後方にいた2人については「弾薬置き場にいた人」などと呼んでいたという。弾薬係の2人を認識していなかった可能性があるとみられているが、この2人に銃撃したことについては「手を上げたり伏せたりせずに、そのままでいたから挑発されたと思った」という趣旨の供述をしていたという。
なぜ、突然凶行に及んだのか。取材に応じた、逮捕された男の兄弟は「暴力的なところはなかった」と人柄を語った。男の兄弟:「優しいって言ったらいいんですかね。困っていたら助けてくれる」Q.暴力的な側面は男の兄弟:「ないですね」Q.ケンカなどは男の兄弟:「兄弟なんでふつうにあると思います。子供の時。ケンカの原因、ケンカしたことは大雑把に覚えているんですけど、その辺はちょっと」Q.殴り合いなどは男の兄弟:「殴り合いは無いです」Q.暴力を振るっているところを見たことは男の兄弟:「暴力を振るっているところは見たことないです」
男は入隊前、実家を離れ「児童養護施設」で生活をしていたという。男の生い立ちについて、同級生は…。小学校から高校の同級生:「中学2年にあがるタイミングで、相手(男)が引っ越してしまった。あんまり事情は聞いていない、なんで転校したかは。高校の時は里親のところで育ててもらったというか、世話になったと」「複雑な家庭環境だった」という証言もあるが、高校時代は放送部の部長を務めるなど活発な一面もあったという。小学校から高校の同級生:「ムードメーカだったのもあって、陽気な感じでした。あまり暗いところはなかったので、基本的に“陽キャラ”みたいな」そんな男が、強い憧れを持っていたのが「自衛隊」だった。
小学校から高校の同級生:「自衛隊員になりたいと言っていた。(高校)3年に入ってから、そういう試験の勉強とかは色々していましたね。駐屯場への見学も一緒に行ったりしましたし。けっこう楽しそうでしたけどね、興味津々というか」事件から1か月後の7月14日、現場の射撃場には、犠牲となった隊員の親族など多くの人が訪れ、花を手向けていた。八代さんの親族:「悲しいから、寂しいから、つらいから」憧れていた自衛隊で、なぜ男は凶行に及んだのか。「黙秘」を続けているとみられ、その真相は明らかになっていないが、事件直後の調べに対し、男はこう語ったという。<隊員の男(18)の供述>「今日、やろうと思った」2023年7月14日放送