大人になると、とんと立ち寄らなくなってしまうスポットの1つに「書店の参考書コーナー」が挙げられる。とは言え、誰しも心のどこかで「自分が学生だった頃と、そう変わり映えしないだろう」と高を括っているはず。
現在ツイッター上では、そうした幻想をぶち壊すか如き「インパクトにあふれた参考書」に注目が集まり、激動の2000年代を生きた「古のオタクたち」から、感動の声が相次いでいるのだ…。
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今回注目したいのは、ツイッターユーザー・花見川さんが投稿した1件のツイート。
「書店の高校学参のコーナー通ったら『こ、これは00年代初期のエロゲ絵! え、絵師は誰だ!!』と確認したら、樋上いたる氏だった上に、各45万部以上売れていた。俺は気が動転した」と興奮した様子で綴られた文章には1枚の写真が添えられており、書架に並んだ3冊の参考書が確認できる。
参考書コーナーで遭遇した本、何かがおかしい… 「親の顔より見…の画像はこちら >>
確かに「参考書にしてはかわいらしい絵柄」な表紙に目がいくが、果たしてこれほど興奮するような事態だろうか…? と、首を傾げた人もいることだろう。
しかしこちらの絵柄、もとい表紙担当のイラストレーターは、一部界隈の人々を大いに感動させてしまう「神采配」だったのだ。
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ツイート本文にもあるように、これらの参考書の表紙イラストを担当した樋上いたる氏は数々のPCゲームの原画を担当しており、中でも恋愛アドベンチャーゲームを原作とした07年のアニメ『CLANNAD -クラナド-』は、PCゲーム未経験な層をも取り込み、現在でも根強い人気を誇る大ヒット作。
00年代を生きた古のオタクの間では「クラナドは人生」なるフレーズが半ば合言葉のようになっており、アニメは未視聴だがこの言葉は聞いたことがある…という人も決して少なくないはずだ。
そうした背景もあってか、件のツイートは投稿から数日で約1.5万件ものRTを叩き出し、他のツイッターユーザーからは「とても見覚えがある絵柄、懐かしい…」「親の顔より見た絵柄」「これもう英才教育だろ」など、称賛の声が相次いでいる。
私も気が動転したありがとうございます https://t.co/iz6chEhU6j
樋上いたるFANBOXやってますー! (@hinoueitaru) January 29, 2023
なお、樋上氏本人もこちらのツイートに「私も気が動転した」と引用RTで反応しており、「かなり前に描いたやつなんですけど、まだ売られてるのにビックリしました」とのコメントを寄せていたのだ。
ツイート投稿主・花見川さんは今回話題となった光景を書店の「売れ筋品」コーナーで発見したそうで、当時の心境を「衝撃的でした」と振り返っている。
ちなみにツイート本文には「各45万部以上売れていた。俺は気が動転した」と綴られているが、帯によると「シリーズ累計」の販売部数とのことなので、花見川さんがいかに動揺していたかが窺えるというもの。
そこで今回は、世のオタクたちに「あの頃」を思い出させてくれた参考書の正体を探るべく、同シリーズを刊行する「KADOKAWA」に詳しい話を聞いてみることに。
二つ返事で取材に応じてくれたKADOKAWAだが、取材現場には予想だにしなかった驚きの人物が現れたのだ…。
書店の高校学参のコーナー通ったら、「こ、これは00年代初期のエロゲ絵!え、絵師は誰だ!!」と確認したら、樋上いたる氏だった上に、各45万部以上売れていた。俺は気が動転した。 pic.twitter.com/rwFDDDOoSK
花見川 (@ch1248) January 29, 2023
今回の取材に応じてくれたのは、なんとKADOKAWAの出版事業グループ 教養・生活文化統括 教育編集部 学習参考書1課の編集長を務める原賢太郎氏。
こちらを受け、記者は「わざわざ編集長がやって来るなんて、ひょっとして自分は何かタブーに触れてしまったのか…?」と大いに動揺してしまったが、じつは「参考書」と「萌え文化」の融合に、原編集長が少なからず関係していたことが明らかになったのだ。
今回話題となった参考書『大学入試 漆原晃の~』シリーズ以前より、「萌え要素」を表紙に取り入れた同社の参考書は定期的に注目を集めており、今から約20年前、現在はKADOKAWAのブランドになっている「中経出版」社から出版された漫画家・江川達也氏のイラストを表紙とした参考書は特に話題を呼んだそう。
原編集長は「これまで参考書というと、シックで地味な印象が強かったのですが、そうしたイメージが変わる切っ掛けになったと思います」と振り返っている。
なお、現行の『大学入試 漆原晃の~』シリーズは14年から刊行されたベストセラーなのだが…なんと当時の原編集長が担当を手がけた書籍であることが判明したのだ。
ひと言に「オタク」や「萌え」といっても、これらのトレンドが年代ごとに大きく異なるのはご存知の通り。そうした事情がある中で「少なくとも10年間は販売できるような、目立つような表紙にしたい」という思いを念頭に、樋上の起用に踏み切ったそう。
結果として、刊行から9年が経過した23年に思わぬバズりを見せた…ということで、当時の原編集長の思いは見事に成就したのだ。
近年では表紙のデザインはそのままに「帯にかわいらしいイラストをつける」パターンも主流。「水と油」に思われた参考書と萌えの関係性だけに、こうした細部のバランス調整が何よりも重要となっているのだろう。
とはいえ、黎明期には社内でも「暴走しすぎ」と指摘する声が上がっていたようで、原編集長はその代表として『CD2枚付 里中哲彦のセンター試験 英語[リスニング]いっき集中攻略法』(現在は取り扱い終了)なる参考書を挙げる。
制服姿で猫耳の少女キャラクターがヘッドホンを首にかけ、ポーズをとったイラストは確かにかわいらしい…のだが、参考書の表紙となると、やはり「攻めの姿勢」を感じてしまう。
なお、営業サイドから「やりすぎ」と怒られるも、当時の原編集長は「リスニングらしくて良いじゃないか」と意志を曲げなかったそうで、いちオタクとして敬意を表したい。
今回話題となったシリーズの他、KADOKAWAではかわいらしいイラストを表紙に構えた参考書を、現在も多数発行している。表紙イラストの担当者は若手社員の提案で決まるケースが多いそうで、「そうした感性は若い方々の方が優れています」とのコメントも得られたのだ。
日本が世界に誇る「オタク文化」との融合は、今後も思いもよらぬシーンでお目にかかれるはず。
(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ)