〈人権侵犯認定の杉田水脈氏を党環境部会長代理に〉問われる自民党の人権感覚。度重なる杉田氏の差別発言に「公認見送り」の声も

「アイヌの民族衣装のコスプレおばさん」といった差別発言をめぐり、札幌法務局に「人権侵犯の事実があった」と認定された杉田水脈議員。これまでも「(同性カップルは)『生産性』がない」などの問題発言を繰り返してきたが、後ろ盾となっていた安倍晋三元首相の死去もあり、自民党内からは「さすがに次は公認を出すべきではない」との声も上がっている。
杉田氏は落選中だった2016年、国連女性差別撤廃委員会に参加した女性らについて記したブログで「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場」などと記述。札幌法務局がこの発言について、9月7日付で「人権侵犯の事実があった」と認定した。杉田氏は、これまでも同性カップルについて「彼ら彼女らは子どもをつくらない。つまり『生産性』がない」、性暴力の被害者への支援をめぐっても「女性はいくらでも嘘をつける」などと発言し、たびたび批判を受けてきた。2022年には総務政務官に就任したものの、度重なる差別発言が国会内外で批判され、4ヶ月ほどで事実上の更迭に。
杉田水脈氏(本人Facebookより)
「杉田氏本人も、過去の発言が尾を引き、政務三役の大臣・副大臣・政務官にはなれないと半ばあきらめていたが、当選3回になっても、当選1~2回が適齢期とされる政務官すら経験していない状況に、岸田首相が配慮。総務政務官に就けたところ、批判が殺到した形です」(全国紙政治部記者)霞が関の官僚からは「しおらしい一面もあり、接してみると意外と人柄はいい。政策への指摘もまともなものが多かった」と評価する声もあがるが、差別発言を繰り返してきた事実は変わらず、自民党議員からは「一部の右派の支持者には受けるのだろうが、さすがにやりすぎ。かばえない」と、あきれる声も少なくない。
これまで何度もその発言が物議をかもしてきた杉田氏だが、自民党で議員を続けてこられたのは、安倍氏の強力な後ろ盾があったからだ。「2012年の衆院選に維新から出馬して初当選した杉田氏ですが、14年に落選。その後、右派系人脈を通じて安倍氏の目に留まり、自民党山口県連入り。17年、21年には上位で名簿に登載された比例中国ブロックで、当選しました」(全国紙政治部記者)安倍氏の死去後には、氏の選挙区だった山口4区で今年4月に行われた補選の候補者として一時、名前が取りざたされたこともあった。「党の内規で、比例単独での名簿登載は原則2回までとされているため、杉田氏本人も選挙区からの出馬に前向きで、昨年12月には、山口4区内の自民市議の事務所に挨拶に訪れるなどしていました。しかし、安倍後援会や安倍夫人・昭恵氏が杉田氏を候補として考えていた様子はありませんでした。杉田氏はもともと山口県出身でもありませんしね」(山口県政関係者)安倍氏の死去後、山口県内の勢力図が様変わりしていることも、杉田氏にとっては逆風だ。
林芳正衆議院議員(本人Facebookより)
「もともと林芳正前外相の林家は地元のインフラ系企業をがっちりとおさえており、安倍家よりも林家が本流、名家でした。しかし、安倍氏が首相になると、状況が一変。安倍氏の後援会メンバーは桜を見る会にも招待されていたにもかかわらず、林系は一切誘われないなど、露骨な林系への冷遇が続きました」(同)こうした山口県内の力関係が一変したきっかけが、安倍氏の銃撃事件だった。今年2月の下関市議選では、安倍系の現職2人が落選する一方、林系の現職は全員当選するなど、安倍系にとって厳しい結果に。県内の安倍系の国会議員には、安倍氏のおいの岸信千世氏もいるが、当選1回で、安倍氏の影響力には遠く及ばない。さらに次期衆院選では、山口県内の小選挙区は4から3に減る。林氏と、安倍氏の後継の吉田真次氏がともに立候補を希望した新3区では林氏が公認候補となり、吉田氏は比例単独での立候補をすることに。「県議会も林系のドンが牛耳り、いまや安倍系はほぼ力を失いました。林氏は首相率いる岸田派に所属していますし、林系が安倍氏の庇護を受けてきた杉田氏に配慮する必要性は何もありません」(前出の山口県政関係者)
一方、自民党本部では杉田氏をめぐる新たな動きがあった。党が29日、杉田氏を環境分野の政府提出法案の審査を担う、環境部会の会長代理に起用することを決めたのだ。「当初は杉田氏を外交部会長代理に就ける案が永田町で出回っていましたが、さすがに、外国人に対する人権意識が問われている杉田氏を外交部会長代理に就けるのは、ハレーションを生みます。それで結局、環境部会長代理に落ち着きました」(全国紙政治部記者)ただ、杉田氏が役職に就いたことで批判は高まっており、今後に向けても「ピンチ」の状態であることは変わっていない。茂木敏充幹事長は26日、会見で次期衆院選での杉田氏の公認について問われ「公認候補者をどう選定するかについてはこれまでどおり、候補者の資質などを踏まえて選挙時に適切に判断していきたい」と述べるにとどめた。
(本人Facebookより)
自民党内からは「安倍派の議員ですら、杉田氏の発言にはドン引きしている人も多い。『比例単独は原則2回まで』の党の内規もあるし、各地の小選挙区はすでに候補者も決まっている。無理やり公認して批判を受ける必要はないのでは」(中堅議員)と、次回の公認に否定的な声も上がる。「杉田氏を比例中国ブロックで厚遇したあおりを受ける形で自民党山口県連に追い出された形となった河村建夫元官房長官の長男・河村建一氏は、日本維新の会に移籍しましたが、杉田氏はあまりにも差別発言のイメージが強く、それも難しいのでは。ただ、熱狂的な支持者も多いので、交流の深い桜井よしこ氏のような右派ジャーナリストとして活躍する道を探るのかもしれません」(全国紙政治部記者)杉田氏は札幌法務局に「人権侵犯」認定をされた後も、コメントを発表していない。杉田氏と、杉田氏を擁立してきた自民党の人権感覚が改めて問われている。取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班