国際通貨基金(IMF)が2023年の各国の名目国内総生産(GDP)の見通しを発表した。日本のGDPはおよそ4兆2300億ドルなのに対し、ドイツはおよそ4兆4300億ドルと予測。日本は長年、米国、中国に次ぐ、第3位の地位を維持してきたが、ついに4位に転落することになる。
そんななか「悲しい円安」という言葉が話題になっている。
「ドル円相場が1ドル=150円近辺を行き来しています。メリットよりもデメリットが上回る“悪い円安”を通り越し、今は“悲しい円安”に突入したと考えています」
こう語るのは、みずほリサーチ&テクノロジーズの主席エコノミストの酒井才介さんだ。
「円安の背景は、まず短期的には、コロナ禍からの経済回復が、アメリカや欧州に比べて周回遅れになっていることが挙げられます。アメリカでは消費需要や賃金が伸び、インフレが加速。急激なインフレの抑制のために、金利を上げて景気を冷まそうとしています。
一方、日本は消費者物価指数が3%ほど伸びているものの、名目賃金の上昇は1~2%ほどで、物価上昇に追いついていません。そもそもコロナ以前に比べて、個人消費は2%ほど弱く、アメリカのように金利を上げるほど、経済が回復していないのです」
日本はこの10年、「デフレからの脱却」を旗印に、低金利を維持するアベノミクスを推進してきた。だが、デフレではない状況には到達したものの、賃金が上がらず、金利を上げるに上げられない状況になっている。その結果、金利の高い米ドルを購入して日本円を売る傾向が強まり、円安が進行しているのだ。
「さらに長期的には、日本の産業競争力が落ちてきていることも、円安の背景にあります。かつては日本の強みだったエレクトロニクス分野も、たとえば半導体では台湾や韓国などアジア圏にシェアを奪われるなど、海外勢に押されています。EV車では完全に出遅れたことなどもあり、日本の稼ぐ力が弱まったことを受けて円の価値が低下しているのです」
■来年の後半までは賃金は物価に追いつかず
“悲しい円安”は、私たちの家計も追い込んでいく。
「日本円の総合的な購買力を表す実質実効為替レートを見ると、2020年を100とした場合、足元は69。3割ほど落ちこんでいます。これは1970年代前半の水準。つまり、国際的に見た日本の経済力は50年前にまで落ちてきているのです。
以前までなら、世界的に原油価格が高騰するような事態に陥ると、安全資産と思われていた日本円が買われ円高になっていたので、原油を購入する際の負担は軽減されました。しかし現在は円安のままなので、原油の値上がり分に加えて、円安の影響でさらに輸入価格が割高になるのです」
原油購入額が上がれば輸送費、燃料費が跳ね上がり、あらゆるものの価格に影響する。
「10月以降も家計への負担は増える見込みです。現状のようなWTI原油価格が1バレル=90ドル、ドル円相場が1ドル=150円程度の状況が続いたと仮定し、家計調査をもとに機械的に試算すると、夫婦と子供1人の3人家族は2023年度通年で平均10万2148円も支出負担増になります。
名目賃金の上昇が物価上昇に追いつくのは、来年の後半くらいとみています。まだ我慢の時期が続く見込みです。家計としても節約などの努力が必要ですが、政府も当面はガソリンやガス・電気などの補助金を継続するほか、低所得者に対する支援を行うなど、物価高対策が求められることになるでしょう」
10月23日の所信表明演説で「経済、経済、経済…」と連呼し、経済政策に力を入れていくことを表明した岸田首相。はたして、地に落ちた日本経済を復活させることができるのか。