構造的円安と循環的円高、米ドル/円の中期的イメージ

マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米ドル/円の近況について解説していただきます。

○円の実効レートは過去最低水準!?

少し前に、円の実力ともいえる実効為替レートが過去最低を記録したとの報道がありました。BIS(国際決済銀行)が発表する円の実質実効レート(対象27カ国のナローベース)をみると、最新の23年9月時点で70年以降の最低水準を更新しています。
○70年から95年までは明確な上昇トレンド

円の実質実効レートは70年から95年4月までは明確に上昇トレンドにありました(図中の青い点線)。構造的な円高です。日本の高度経済成長、日米貿易不均衡是正のための内需拡大期(バブル期)など、日本経済の力強さが意識された時代でしょう。同じ時期に米国では産業空洞化による経済の低迷が顕著でした(ちなみに、当時の円の実質実効レートにおける米ドルのウェイトは約4割)。
○95年以降は下降トレンド

95年4月以降は、円の実質実効レートは明確な下降トレンドで(オレンジの点線)、構造的な円安と判断できます。平成バブル崩壊の後遺症や少子高齢化の進展によって日本経済が地盤沈下を起こし、反対に米国はIT革命によって経済の活力を高めたと言えるでしょう。

○循環的にも20年5月以降は下降局面

そして、円の実質実効レートのトレンド(青やオレンジの点線)からのかい離は、循環要因に基づくとみることができます。トレンドから上下15%のかい離幅で循環しており、周期は7年6カ月から11年2カ月で、平均8年9カ月です(15年6月に始まる今回の循環を除く)。そして、現在は20年5月からの下降局面に入っています。20年春のコロナ・ショックによる強いリスクオフ(リスク回避)が円を押し上げた後、リスクオフの後退が、そして22年以降は内外金融政策の差(日銀は金融緩和を継続、他の主要中央銀行は大幅な利上げを実施)が円安をもたらしました。

とりわけ、22-23年は上述した構造的円安に金融政策の差という循環的円安が重なって、大幅な円安が進行しました。ただ、いよいよ日銀がマイナス金利の解除や長期金利の上昇容認に踏み切るとの機運は高まっています。一方で、多くの主要中銀が利上げサイクルを終了しつつあり、今後は利下げのタイミングを模索し始めるでしょう。
○構造的円安と循環的円高の組み合わせは?

少子高齢化など構造的な円安要因に大きな変化はないでしょうが、金融政策の循環面ではこれまでの円安から円高へと転換しつつあります。短期的には、構造要因よりも循環要因の影響が大きいとみられるので、日銀の利上げや主要中銀の利下げが今以上に現実味を帯びれば、円高が進行しそうです。ただし、構造要因が重石として作用するため、円高の余地は以前より小さくなりそうです。
○米ドル/円の中期的なイメージ

米ドル/円の中期的なイメージを持つために、米ドル/円が円の実効レートと全く同じ動きをすると仮定し(かなり乱暴ですが)、円の実効レートの変動パターンに則して大雑把に試算すると(計算は省きます)……

「米ドル/円は24年3月に155円でピークをつける」
「そして米ドル/円の次のボトムは28年7月で126円」

あくまでイメージ作りのための試算です。

米ドル/円はすでにピークをつけた可能性があるし、日銀のマイナス金利解除の時期として24年3月が有力視されているので、その時まで米ドル/円が上昇を続けるかは微妙でしょう。もっとも、日銀が解除時期を遅らせて市場の期待を裏切れば、米ドル/円が一段と上昇しても不思議ではありません。

他方、28年まで米ドル/円の下落が続くためには、日銀がマイナス金利解除後も利上げを継続し、一方でFRBが利下げを繰り返すか、利下げ打ち止め後も低金利を維持する必要がありそうです。

西田明弘(マネースクエア) マネースクエア チーフエコノミスト。日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで「ファンダメ・ポイント」 や「ウイークリーアウトルック」 などのレポートを配信する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」 でマーケットを解説。 この著者の記事一覧はこちら