M&Aとは? 売り手と買い手のメリット、デメリット

企業の成長戦略として、または事業存続のため、企業間において、M&Aや事業承継という手段が用いられることがあります。ビジネス用語として耳にするM&Aや事業承継ですが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。

今回は、M&Aや事業承継について、概要や両者の違いを解説します。また、事業承継におけるM&Aのメリットとデメリットを、売り手企業、買い手企業それぞれの視点からご紹介します。

■M&A、事業承継とは? 両者の違いは
<M&Aとは>

M&A(エムアンドエー)とは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略です。M&Aは「企業の合併・買収」のことで、2つ以上の会社が1つになったり(合併)、ある会社がほかの会社を買ったり(買収)することを意味します。また、広義の意味としては、企業の合併・買収だけでなく、業務提携や資本提携まで含める場合もあります。

M&Aのさらに具体的な内容としては、企業または事業の全部、もしくは一部の移転を伴う取引のことで、一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味します。

M&Aというと、以前は「外資系企業の乗っ取り」というイメージを持っている人が多かったかもしれません。しかし、近年では、企業の成長戦略の手段としての意味合いが強くなっており、買収された企業の経営者が新会社の取締役に就任するケースもあります。
<事業承継とは>

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。中堅・中小企業では、オーナー社長の経営手腕によって企業の存続が保たれていることも多く、誰を後継者に据えて事業を引き継ぐかは重要な経営課題となっています。

また、非上場のオーナー企業では、上場企業と違い、経営者自身が株式を保有しており、社長の交代には贈与や相続といった税金の問題が発生します。さらには、後継者探しやその育成も必要でしょう。まだ経営者として第一線で活躍していても、事業承継については早めに検討しておく必要があるのです。
<M&Aと事業承継の違い>

では、M&Aと事業承継には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。M&Aと事業承継は、事業を誰かに引き継ぐという意味では同じです。しかし、M&Aは現経営者が引き続き経営に携わることもあるのに対し、事業承継は現経営者の引退を前提としている点で異なっています。

また、事業承継の手段としてM&Aを活用することもあります。これまでは、中小企業の事業承継というと、経営者が自身の子どもや親族に継がせる「親族内承継」が大半でした。しかし、近年の中小企業は後継者不足という問題に直面しています。

そこで、従業員や役員に継がせる「親族外承継」を行うほか、M&Aによって外部に会社や事業を譲渡する事例も増えているのです。

つまり、M&Aと事業承継は異なるものですが、M&Aは事業承継の一部と言うこともできるでしょう。
■事業承継としてのM&Aのメリットとデメリット

それでは、M&Aにはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。特に、事業承継としてのM&Aにおけるメリット、デメリットを売り手企業(譲渡企業)、買い手企業(譲受企業)それぞれの視点からまとめました。

<売り手企業のメリット>

・後継者を幅広く探すことができる

M&Aの大きなメリットとして、社外に後継者を求められるという点が挙げられます。事業承継の選択肢としてM&Aを選べば、幅広い中から後継者を探すことが可能になり、後継者問題が解決され、事業存続がかなえられます。

中小企業庁の調査によると、中小企業の経営者の平均年齢は年々上昇しており、2020年には30万人以上の社長が70歳超えとなっています。また、中小企業の70%近くが「後継者不在」と回答しています。

後継者問題を抱える企業にとって、M&Aは、事業承継のみならず事業成長も同時に見込めるチャンスとなるでしょう。

・従業員の雇用や取引先との関係を維持できる

後継者が見つからないことによる廃業、従業員の解雇は、できれば避けたいものです。そこで、M&Aを活用すれば、従業員の雇用を守れる可能性が高くなります。中堅・中小企業におけるM&Aでは、多くの場合、「従業員の雇用の維持」が譲渡先への条件として挙げられているからです。

また、M&Aの実行後には、従業員が以前と同じ条件で雇用されるほか、顧客や取引先もそのまま継承されるケースが一般的です。さらに、上場企業や大手企業の傘下に入るとなれば、従業員によりよい労働環境を提供することもできるでしょう。

・事業譲渡により創業者利益が得られる

M&Aによる事業承継で株式を譲渡すると、現在の経営者は、創業者利益として現金を手にすることができます。余裕のある老後生活を送れるほか、財産が自社株式から現金に変わることで、相続がスムーズに進むというメリットも得られます。

・個人保証(経営者保証)から解放される

個人保証とは、企業が金融機関から融資を受ける際、経営者が連帯保証人になることです。中小企業では、経営者が個人保証を行い、融資を受けるケースが多くみられます。M&Aが実施されると、譲受側が融資を肩代わりする、または保証そのものを引き受ける形となり、現在の経営者は個人保証から解放されることになります。

<売り手企業のデメリット>

・従業員の雇用条件が変わる可能性がある

事業譲渡では雇用契約を結び直すことになるため、雇用条件が現状から変更される可能性も否定はできません。雇用条件の変更による優秀な人材の流出を防ぐためにも、雇用の継続だけでなく、雇用条件も維持できるよう交渉や成約を進める必要があります。

・後継者が経営理念を引き継ぐとは限らない

外部から後継者を選ぶ場合、新たな経営者は、現在の経営者が築いてきた経営理念や従業員とともに作り上げてきた企業文化を引き継ぐとは限りません。後継者にも経営の経験がある以上、自分のやり方で経営を進める可能性もあるでしょう。

その結果、役員や従業員が新しいやり方になじめず、人材が流出してしまう恐れもあります。

・必ずしも希望する価格で譲渡できない

買い手企業は、売り手企業の事業の将来性を見据えて売却価格を決定します。そのため、「高い収益性は見込めない」と判断されると、売却価格が想定を下回る場合もあります。

売却価格を高くするには、利益率を上げるなど企業価値を高める施策が欠かせません。

<買い手企業のメリット>

・事業の拡大が見込める

同業の企業を譲り受ければ、効率的に既存事業を拡大し、業界内のシェア向上を目指すことができます。同業の会社なら、商流が似通っているため、仕入れや発注において大幅なコスト削減を実現できる場合も多いです。

・人材の獲得や技術力の向上が見込める

人口減少による労働者の確保が難しくなるなか、人材獲得のためにM&Aが行われることも珍しくありません。特に、病院や調剤薬局、運送業界、建設・建築業界などでは、有資格者の確保が業績や事業拡大に欠かせません。

有資格者や技術者を得るためのM&Aに成功すれば、自社の新たな分野への開拓や技術力向上につながるでしょう。

・事業の多角化が目指せる

新規事業を展開したい場合も、M&Aの活用が有効です。一から新規事業を立ち上げなくても、すでに事業展開している企業を取り込むことで、人材確保やノウハウ確立の手間や時間を省き、スピーディーに事業を展開し多角化を目指せます。
<買い手企業のデメリット>

・企業文化や組織の統合に時間がかかる

M&Aを実行しても、企業文化や組織の統合には時間がかかります。M&Aの検討から実行~成約までは約1年半かかると言われており、さらに、異なる企業文化や社風の企業同士がまとまるには、M&A後、中長期で取り組む必要があります。

それまでに従業員が離脱してしまわないよう、成果の出しやすい取り組みを優先して行うなど、M&Aによる企業成長を少しでも実感してもらうことが重要です。

・想定していたシナジー効果が得られない場合もある

M&Aには、事業拡大や事業の多角化などさまざまなメリットが期待できる一方、想定していたほどの相乗効果が得られない場合もあります。また、統合の進め方を誤ると、組織再編がスムーズにいかない恐れもあるでしょう。

基本合意の段階で、統合の戦略を深めておいたり、組織構成をシンプルにしておいたりするなど事前の対応が必要です。

・簿外債務が発生する可能性がある

「簿外債務」とは、帳簿や決算書類に記載されていない債務のことです。M&Aの際に簿外債務が発覚することはレアなケースではありませんが、買収時に譲渡企業の簿外債務を引き継いでしまうと、M&Aの成功が危うくなる恐れもあります。

こうした事態を回避するためには、事前にデューデリジェンス(買収監査)により徹底して確認しておくことが大切です。
■M&A、事業承継は早めの準備を

M&Aや事業承継には利点も多い一方、確認しておかなければならないデメリットも存在し、事前準備も欠かせません。特に、M&Aによる事業承継を望む場合は、自社を売れる状態にしておき、買い手企業を探す必要もあります。

M&A、事業承継の成功は、短期間には成し得ません。将来的に検討している場合でも、今からしっかり準備を進めておきましょう。

武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら