マニュアル車は減少中だが…ホンダがシビックにMT専用のRSを追加する理由

ホンダは「シビック」の新グレード「RS」を発表した。まだプロトタイプの段階らしいが、車内を見てみるとミッションはMT(マニュアル)となっていて、AT(オートマ)車を設定するつもりはないそうだ。シビックのMT限定グレードはどんなクルマなのか。そして、誰向けに開発しているのか。話を聞いてきた。

なぜMT専用なのか?

シビックは1972年に発売となったコンパクトハッチバックが起源。その後はモデルチェンジを重ね(日本市場から消えていた時期もあるが)、2021年に11代目へと進化した。現行モデルはコンパクトハッチバックではなくセダンのみのラインアップ。「e:HEV」搭載のハイブリッド車や走りを極めた「タイプR」などのグレードがある。個人的な話にはなるが、筆者の母も1998年式のシビックセダンを愛車にしていたことがあり、思い入れがある1台だ。

発表となったばかりのシビックRS プロトタイプについて現時点でわかっていることは、「6速のマニュアルトランスミッション(MT)専用グレード」で「ガソリンエンジンを搭載する」ということだけ。展示車のウインドウには真っ黒なフィルムが貼られ、内装を垣間見ることさえできなかった。

そもそも、市場全体を見渡せばMT車はほぼ絶滅状態にあるし、シビックにはすでに「タイプR」という6速MT車も存在している。なぜホンダは、シビックに改めてMT限定グレードを設定しようとしているのか。オートサロン会場にいた担当者の解説はこうだ。

「クルマにとって快適な居住性や低燃費などの要素はとても重要ですが、『操る喜び』も必要不可欠です。そのため、MT車でしか得られない操作性や乗り心地を突き詰めるのは当社(ホンダ)の役割だと考えています」(以下、カッコ内はホンダ担当者)

とはいえ、ホンダには「N-ONE RS」や「シビック タイプR」などのMT車がすでに存在する。なぜシビックに追加するのか。

「N-ONEは軽自動車なので、選択肢に入らないというお客様がいらっしゃいます。一方のシビック タイプRは、あらゆる乗員が快適に移動できるクルマとは言い難い部分があります。つまりゴリゴリのスポーツカーであり、本格的すぎて敬遠してしまうお客様がいらっしゃるんです」

タイプRは本格的すぎるし価格も高い。それに、熱狂的な人気を誇るタイプRは売り切れ状態で、現在は一時的に受注停止となっている。

「MT車の『操る喜び』を訴求する上で、N-ONEとタイプRの中間の車種が少ないのが課題でした。本格的なMT車はいらないが、気軽に乗れるMT車がほしいという意見は、たくさん届いていたんです。シビック タイプRよりも手軽に乗って楽しめるガソリンエンジンを搭載したMT車を提供する必要があると考えました」

そうして誕生したのがシビックRS プロトタイプというわけだ。

昨年の「ジャパンモビリティショー2023」で「プレリュード コンセプト」を取材したときにも聞いた話だが、ホンダには「MT車には乗ってみたいが、レーシングマシンに近い本格的なモデル(例えばタイプRなど)は望まない。もっと性能的にも価格的にも気軽に乗れるMT車を出してほしい」という要望はかなり多く寄せられていたそうだ。

プレリュード コンセプトはハイブリッドモデルになることから、MT車ではないと考えられる(とはいえMT車が出る可能性もゼロではない)。気軽に乗れるMT車という役割は、とりあえずシビックRSが担うことになりそうだ。

シビックRSは今のところプロトタイプなので、価格や排気量などの詳細なスペックは不明だが、担当者は「快適に乗れるMT車に仕上がっています」と話していた。

エンジンは1.5L?

シビックRS プロトタイプの具体的な情報は少ないが、生産が追い付かず受注停止状態のタイプRに代わる、あるいはそれに準じるモデルとして登場するのであれば、パワートレインは1.5L(2.0Lもある?)のターボエンジンになる可能性が高い。タイプRの下位グレードという立ち位置であれば燃費もよくなるはずだし、価格もタイプRの499万円よりは安価に購入できるはずだ。

情報が少ないといろいろと予想したくなるが、早ければ2024年秋にもシビックRSの正式発表があるだろう。ホンダが掲げる「操る喜び」がどのように落とし込まれたモデルとなるのか、今後の動きに注目していきたい。

室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら