「おかしいよ!」「やってないよ!」妻殺害を問われた元講談社編集者・朴被告が有罪判決に絶叫。最高裁は「事実誤認の疑いがある」と差し戻し控訴審中に

2016年8月、東京都の自宅で妻を殺害したとして殺人罪に問われた講談社の元敏腕マンガ編集者の朴鐘顕(パク・チョンヒョン)被告(48)。妻の死から7年以上が経過した2024年現在、東京高裁で差し戻し控訴審が開かれている。1審と2審で、殺人罪で懲役11年などの判決が出ると、「間違っている!」「やっていないよ!」と法廷内で絶叫するなど「心証は非常に悪かった」(大手紙司法担当記者)とも。この奇妙な叫びは嘘偽りない真実に基づくものだったのか……。
2016年8月9日未明、東京都文京区の自宅から朴被告は119番通報していた。「妻が倒れている」2階建ての戸建てに救急隊員らが駆けつけると、階段の下付近に妻の佳菜子さん(当時38)が倒れていた。すでに心肺停止状態で搬送先の病院で死亡が確認された。朴被告は当初、救急隊員らに「妻は階段から落ちた」と説明するも、翌日になって一転、「階段の手すりで首をつって自殺した」と供述。実際に頸部圧迫による窒息死が佳菜子さんの死因とみられている。警視庁は一貫性のない言動を不審に思い、捜査を進めた。
朴鐘顕被告
「このとき佳菜子さんは4人目を出産して間もなくで、『産後うつ』だったとみられています。死の直前には『夫が子育てを手伝ってくれない』などと家庭支援センターに相談に行っていたほか、さらに朴被告によるDVを訴えていたこともありました。そのような事情を踏まえたうえで、警視庁が慎重に捜査を進めたところ、1階の寝室に佳菜子さんの尿反応があることや血液が混ざった唾液が検出されるなどしたため、朴被告が首を絞めて殺害した疑いが強まった。そして事件から約4ヶ月後の2017年1月に殺人容疑で逮捕しました。その他の状況証拠から、警視庁は朴被告が1階で佳菜子さんの首を絞め、証拠隠滅のために2階から突き落としたというストーリーを検察とともに描きました」(前出の記者)大阪府出身で在日韓国人2世だった朴被告は父を早くに亡くし、貧しい生活と時には差別に苦しみながらも京都大学法学部に入学。卒業後は講談社に入社し、敏腕編集者として活躍していた。担当作品のなかでも有名なのは「週刊少年マガジン」で担当した『GTO』『七つの大罪』など。逮捕時は青年漫画誌「モーニング」の編集次長で、当時人気絶頂だった『進撃の巨人』に関わったこともあった。
講談社(撮影/集英社オンライン)
逮捕報道が流れると、朴被告が大ヒット漫画を担当していた敏腕編集者だったことに世間は大きく反応した。朴被告は当初「妻は階段から落ちた」とウソをついたことについて「子どもに妻が自殺したと知られたくなかった」と説明し、その後は「妻は自殺した」と、一貫して無罪を主張した。
朴被告の主張はこうだ。事件当日、佳菜子さんと1階の寝室でもみあいになり押さえつけるなどした後に、佳菜子さんが包丁を持っていたことから、子どもを抱えて2階の寝室に逃げて閉じこもった。しばらくして、部屋から出て階段を見ると佳菜子さんがジャケットを手すりにかけて首を吊っていた。一方の検察は、1階の寝室でもみあいになった際に朴被告が佳菜子さんを絞殺。証拠隠滅のために、佳菜子さんを2階まで引きずっていき、階段から突き落としたとしている。自殺か、殺人か。直接証拠がないなか、遺体の発見状況など客観的な証拠に照らして全面的に争われたが、1審の東京地裁の裁判員裁判(2019年2月~3月)でも、2審の東京高裁(2020年7月~2021年1月)でも、朴被告による殺人と認定され、いずれも懲役11年が言い渡された。そして、朴被告は冒頭のように両裁判の厳粛な法廷で騒いだのだ。
死亡した妻の佳菜子さん
「2019年の東京地裁での裁判で、裁判長が朴被告の主張について『説得力がない』と断じると、朴被告は『間違っている』とわめきちらし、2021年の2審でも『自殺の現実的な可能性はない』と判決が言い渡されると『おかしいよ!』『やっていないよ!』と叫びました。当初は精神的に参ってしまっているのかなと思いましたが……」(同)通常ならば最高裁も高裁を支持して刑が確定する流れだ。しかし、朴被告のケースは異例ずくめの展開をたどった。「一般的な殺人犯とは周囲の支援が大きく異なります。朴被告の実の母親が無罪を信じて4人の子どもの面倒を見ているほか、被害者とされる佳菜子さんの父親も『朴くんがやったとは考えられない』と裁判のやり直しを求めました。古巣の講談社も、殺人犯になった後も何年間も朴被告を社員で雇い続けた。朴被告の友人らも無罪を信じて、積極的に支援しています。さらに……」(同記者)そして、朴被告にさらなる追い風が吹き、「重大な事実誤認の疑いがある」と最高裁が審理を差し戻すことになった。いったい何があったのか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班